医療サポート事例:地域医療戦略

“みんなにとって、やさしい頼りになる病院”
~地域を支え、地域の医師会から頼られる医療連携の進め方

患者支援センター 地域医療連携課 須賀 一夫 課長
前橋赤十字病院 副院長 地域医療支援・連携センター長 朝倉 健 先生

 前橋赤十字病院
 副院長 地域医療支援・連携センター長
 朝倉 健 先生(左)
 患者支援センター 地域医療連携課
 須賀 一夫 課長(右)

設立から100年以上の歴史を持つ前橋赤十字病院(群馬県前橋市)は、医師会立以外の地域医療支援病院としていち早く承認されたことで知られています。同病院ではそれ以来、脳卒中の地域連携パスの一本化を主導するなど、県全域で医療連携を進めてきました。
連携推進の仕掛人は、地域医療支援・連携センター長を兼任する朝倉健副院長と、地域医療連携課の須賀一夫課長のお2人です。
毎年9月に開かれる「登録医大会」には開業医130人前後が参加し、地域の医療従事者向けの講演会にも毎回100人以上が集まります。同病院と地域との連携体制は今でこそ盤石ですが、ここまでの道のりは決して平たんではなかったそうです。
少子・高齢化の進展で地域の医療ニーズが目まぐるしく変わる中、うまくいく連携の進め方についてお伺いしました。

1.群市医師会との連携の進め方

-前橋赤十字病院は、地域医療連携の先駆け的な存在として今でこそ広く知られていますが、地域医療支援病院になる前はどうだったのでしょうか。

須賀さん 当院は地域医療支援病院として2002年1月に正式に承認され、その時点で地域医療連携づくりに特化する方向性が明確でした。当時は、地域の医療機関が役割分担し、互いに連携することの大切さが叫ばれ始めたころでしたが、地域の先生方の所へごあいさつに伺うと、「紹介した患者さんをそのまま囲い込まれてしまった」といった、病院への反感が根強くありました。そういう意味で、わたしたちのこれまでの取り組みは、先生方の信頼を勝ち取るための努力の積み重ねだったと言えます。

-地域の信頼は、どのようにして勝ち取ってきたのでしょうか。

須賀さん 患者さん一人を病院に紹介することは、開業医の皆さんにとって「マイナス1」を意味します。わたしたちがその患者さんをお戻しすると「プラスマイナスゼロ」になりますが、それに加え、例えば紹介状のない当院の外来患者さんをできるだけお任せするなど、むしろ「プラス1」にすることをいつも意識しています。
クレーム対応も非常に大切です。クレームにこそ、地域の先生方からわたしたちへのニーズが含まれているからです。そのためわたしたち地域医療連携課では、内外からのクレーム対応を業務の一つに位置付けています(図1)。開業医の皆さんにごあいさつに伺うと、これまでの電話応対の際に失礼がなかったかなどをお聞きして、問題があればすぐ改善します。とはいえ、「顔の見える連携」が進まないと、なかなか本音は聞けません。そこで当院では、係長とわたしの2人で担当エリアを決め、それぞれが同じ連携先に繰り返し足を運ぶようにしています。

図1 地域医療連携課の主な業務

図1 地域医療連携課の主な業務

(資料:前橋赤十字病院 須賀一夫地域医療連携課長ご提供)

-医師会との関係づくりはいかがでしたか。

須賀さん 紹介率と逆紹介率の実績や講演会開催の報告、開催案内、当院からの協力願い、各診療科の休診予定などをまとめた「地域医療連携情報」という広報紙をつくり、原則として毎月19日の定期訪問の際に周辺の医師会や歯科医師会にお届けしています。県内の群市医師会が月ごとの理事会や例会を開くタイミングで最新の情報をお伝えできるように、一番早く開催する医師会に合わせ、この日に定期訪問を設定しています(図2)。また年度カレンダー(4月~翌年4月の13カ月)を作成し、毎月配布いただいている郡市医師会と郡市歯科医師会の協力を得て、例会や総会等の行事を掲載して、医師会員や歯科医師会員の先生方に広報のご協力をしています。

図2 毎月19日は周辺の郡市医師会・歯科医師会を定期訪問

図2 事務局長や事務長さんとの『顔のみえる連携』づくり

(資料:前橋赤十字病院 須賀一夫地域医療連携課長ご提供)

各医師会との関係は今でこそ良好ですが、地域医療支援病院になりたてのころは、「“第2医師会”をつくるつもりか」と疑われたこともあります。当院の開放型病床や設備を、あらかじめ契約していただく先生と共同利用するという地域医療支援病院の登録医制度がそうした誤解を招いたのです。当時は、地域医療支援病院という制度自体が認知されていませんでしたし、そういう時代だったのです。

-そうしたハードルはどのように下げたのでしょうか。

須賀 一夫 課長

須賀さん 基本的には毎月の定期訪問です。また、地元の前橋市医師会との連携では、当院の地域医療連携委員会に出席していただいたことが大きかったでしょう。地域医療支援病院には、外部の有識者委員会の意見を業務改善につなげることが求められますが、当院の場合は、年間10回前後開催の地域医療連携委員会がこの外部委員会に当たります。「地域医療連携を推進する」と言っても、病院と開業医の立場は、実際には大きく異なります。それを理解し、共通の目標を検討する上で、地域の先生方との意見交換は非常に有益です。実際、委員会での活動を通じて、この地域の医療関係者のベクトルが同じ方向に向き始めた印象です。

2.脳卒中の地域連携パスを一本化するための取り組み

-群馬県では、脳卒中の地域連携パスを早くから一本化したとお聞きしています。

朝倉 健 先生

朝倉先生 脳卒中の地域連携パスは、大腿骨頸部骨折に次ぐ県内2つ目のパスで、2008年に運用が始まりました。県内には当初、脳卒中の地域連携パスが3種類ありましたが、いずれ一本化する必要があると感じていました。そこで、脳卒中の治療を行う県内の全病院を須賀課長と訪問して協力を呼び掛け、最適な地域連携パスを検討する「脳卒中を考える会」を2007年に立ち上げました。現在のパスに一本化できたのは2011年のことです。

-地域連携パスを一本化する必要があるとお考えになったのはなぜですか。

朝倉先生 一つの疾患に複数の地域連携パスがあってもわたしたち急性期病院は全く困りませんが、連携先の回復期病院や開業医の先生方はそれら全てに対応しなくてはなりません。例えば、地域連携パスに参加する医療機関は年3回の合同会議に参加する必要があります。パスが3つあると会議にそれぞれ3回参加しなくてはならず、非常に煩雑なのです。
現在のパスの最大の特徴は、医師の負担を軽減するため記入欄を極力少なくした点です。その代わり、医師以外の専門職の記入欄を増やし、多職種連携を促しました。さらに、実際の連携では急性期の12病院を3つのグループに分け、合同会議はグループごとに年1回ずつ開けばいいように工夫しました。

-脳卒中の地域連携パスを一本化できたポイントは何でしょうか。

朝倉先生 須賀課長を中心とした地域医療連携課によるマネジメントによるところが非常に大きかったと思います。大学の医学部が一つしかないという群馬県の地域性もあったでしょう。

-須賀課長は当時、どのように対応されましたか。

須賀さん 「脳卒中を考える会」を立ち上げた際に参加病院を回り、あらためて連携を呼び掛けました。そのうち2週間以内にお返事があった回復期の12病院と地域連携パスの具体化の検討を先行してスタートさせ、残りの病院の参加を促したのです。

-地域連携パスの具体化は、それらの病院の皆さんと顔を突き合わせて進めたのでしょうか。

朝倉先生 そうです。当時はクリニカルパスの概念自体がそれほど普及していませんでしたから、そこから勉強を始め、毎月のように顔を合わせて議論しました。とにかく大変でしたが、誰もやっていないことを形にするやりがいの大きさを実感できたことを覚えています。

須賀さん 退院患者さんを引き受けてくださる回復期病院の皆さんが、普段どのようなことを考えているのか、わたしたち急性期病院にはなかなか分かりませんが、議論を重ねていくとやがて見えてくる。そうした相互理解が現在の連携にも役立っていると思います。つまり患者さんを転院として受け入れていただくのだから、受入れいただく立場に立って常に考えることが必要です。

3.脳卒中の地域連携パスを導入したことの効果

-地域連携パスが導入され、脳卒中の治療プロセスはどう変わりましたか。

朝倉 健 先生

朝倉先生 当時は、退院患者さんをなかなか引き受けてもらえず、ベッドが空くまで1カ月以上待つこともありました。しかしそれではあまりに非効率なので、転院は最大で2週間以内にお引き受けいただくというルールができました。受け入れまでの期間が2週間を超えた症例は、医療の標準化を妨げる「バリアンス」とみなされ、バリアンス分析会議で原因を究明し、必要に応じてパスの見直しを検討します。回復期の参加病院は、それらの実績データをほかと比較し、自分たちの弱点も検証することができます。

-地域連携パスを適用する脳卒中の症例はどのくらいあるのでしょうか。

朝倉先生 全県で年に1,100~1,200件程度で、当院の症例はそのうち250件ほどです。全県での適用は右肩上がりに増え、近年は高止まりしている状況です(図3)。

図3 脳卒中連携パス・疾患別集計

図3 脳卒中連携パス・疾患別集計

(資料:前橋赤十字病院 朝倉 健 先生 ご提供)

-群馬脳卒中救急医療ネットワーク(GSEN=Gunma Stroke Emergency Network)についてお聞かせください。

朝倉先生 脳卒中の医療の質を向上させるため、2008年12月に立ち上げたネットワークです。現在は、46病院と210の診療所、18の介護老人保健施設が脳卒中地域連携パスに参加していますが、一般市民向けに脳卒中予防や早期受診の普及啓発、また、消防との連携も重要です。そのため、県内各地の消防本部などにも参加を呼び掛け、救急隊員向けに脳卒中病院前救護(Prehospital Stroke Life Support 、PSLS)の講習を開いたりする救急研修など4つのワーキンググループを立ち上げました。救急隊の皆さんは非常に熱心で、PSLSの延べ参加人数は全国1位です。また、脳神経外科や脳神経内科を標榜する県内の56病院を対象に、超急性期の血栓溶解療法(t-PA療法)を行えるか、夜間や休日の急患にどれだけ対応し、転帰はどうだったかなどを当院の地域医療連携課が毎年調べ、県や各消防本部とも結果を共有しています。それによって、脳卒中と判断した患者さんを最適な病院に搬送するストローク・バイパス・システムができたのは大きな成果でしょう。

4.研修会に人を集めるコツ

-GSENの講習会だけでなく、前橋赤十字病院では、地域の医療従事者向けに開く年30回以上の研修や年1回の「登録医大会」への参加者が非常に多いとお聞きしています。例えば研修のテーマはどのように決めるのでしょうか。

須賀 一夫 課長

須賀さん 地域の医療従事者の研修は、「地域連携学術講演会」と称して年15回程度の講演会を中心に、各種症例検討会、講習会を開いています。講演会のテーマは、新たな診療ガイドラインや新薬が出たり、世間で感染症が話題になったり、タイムリーな内容はその時々で異なるので、朝倉先生や座長をお願いする先生に相談しながら検討します。登録医の皆さんのニーズも把握する必要があるので、研修会の当日に次回のテーマは何がいいか、毎回アンケートしています。それを基にテーマを検討し、朝倉先生に事前にご確認することもあります。以前は、登録医の先生にお聞きすることもありましたが、お聞きした以上はそのテーマを取り上げないわけにはいかなくなるので、難しさを感じています。ただ、ご意見をお聞きするのは大切なことなので、日々の訪問の際、伺うこともあります。

-開催の日時はどのように決めるのでしょうか。

須賀さん 医療機関は、前月の診療報酬明細書(レセプト)を毎月9日までに出さなくてはなりません。また、県内の開業医の皆さんは毎週水曜か木曜の午後に休診するケースが多い。金曜にはほかにもいろいろなイベントがあるのでできるだけ避け、月ベースでは10日以降の水曜か木曜になるべく開くようにしています。ただ、この時期は医師会の講演会などとバッティングしやすいので、要注意です。また当院では可能な限り、全国から高名な講師の先生をお招きしています。地域医療機関の先生方がお忙しいなか、当院の学術講演会にお出でいただければ、医学会に出席しなくても済むように考えております。

-最後に、これからの地域医療連携の方針をお聞かせください。

朝倉先生 医師の立場からは、いろいろなツールを活用して「顔の見える連携」を引き続き推進し、地域の医療ニーズに応えていくということに尽きるでしょう。

須賀さん 限りある地域の医療資源を共有すべきだというのがわたしの基本的な考え方です。わたしたち急性期病院のベッドだけでなく、人材育成もそう。これからは、連携先も含めて地域の人材をいかにレベルアップさせるかを考えるべきでしょう。それによる恩恵が、ブーメランのように返ってくるはずです。

-地域医療連携に一人勝ちはないということでしょうか。

須賀さん そうです。ただ、それには、地域の医療機関同士の医療の役割分担が重要です。脳卒中治療でいうと、全ての医療機関がt-PA療法に必要な設備投資を行う必要はありませんし、回復期の病院は回復期機能を高めるための投資をすればいい。その上で、それぞれが地域に選ばれる存在を目指すべきでしょう。
また地域や病院ごとに置かれた環境だけでなく、病院の方針、地域からの要望、得意な分野も異なりますが、共通することは「患者さんのために」、「地域の医療機関や施設のために」ということです。そのために、役割分担を明確に共有し、医療機能分化としてお互いに協力しあうことが必要です。地域の医療資源は限られていますから、「自院のベッド」でなく、「地域のベッド」という考え方が大切だと思います。

朝倉 健 先生(左) 須賀 一夫 課長(右)

取材の裏話・・・

インタビュアー
インタビュアー:―脳卒中医療の質向上に向けて、行政はどのような対応を取ってきましたか。
朝倉 健 先生
朝倉先生:群馬県にお願いして、「ぐんまちゃんの脳卒中ノート」を2016年に発行しました。これまでに、熊本県では「くまもんの脳卒中ノート」を出しています。わたしたちの脳卒中ノートはそれほどの予算は掛かっていませんが、とても好評です。脳卒中の地域連携パスを適用された患者さんに配布して初版の5,000部はすぐなくなり、重版をかけたほどです。2019年には改訂版が出されました。
インタビュアー
インタビュアー:―脳卒中ノートをつくったのは、どのような狙いからしょうか。
朝倉 健 先生
朝倉先生:脳卒中ノートには、患者さんが理解しておくべき事柄をまとめました。脳卒中は再発防止が特に大切なので、日本脳卒中協会がまとめた予防の十か条を掲載しています。また、地域の中でどのように治療が進むのかを理解していただくため、地域連携パスのエッセンスも盛り込みました。堅い内容になり過ぎないよう、ゆるキャラグランプリに輝いた「ぐんまちゃん」のイラストをふんだんに取り入れ、知り合いの画家にイラストやコラムの執筆をお願いしました。
須賀さん
須賀さん:この地域で医療連携を推進する上で強く感じるのは、熱しやすく冷めやすいという群馬の県民性を押さえることの大切さです。群馬県民は、何か物事が決まるとそこに向かって一気に突き進みますが、すぐ飽きてしまう。医療連携を持続させるには、常に新しいアイデアを出し続けることもポイントだと思います。脳卒中ノートもその一つです。

図3 ぐんまちゃんの脳卒中ノート

【解説】地域医療支援病院の役割に「医師少ない地域」への支援―法改正へ

1990年代に創設された地域医療支援病院制度が曲がり角を迎えています。厚生労働省の検討会が2019年8月に行った議論の整理では、医師の地域偏在の解消に対応しやすくするため、医師が少ない地域への支援を地域医療支援病院の基本的な役割の一つと位置付ける必要性を指摘しました。その上で、そうした地域への巡回診療の実施などの新たな要件を、都道府県知事の権限で必要に応じて追加できるようにするべきだとしています。

2019年8月に議論の整理を行ったのは、厚労省の「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」で、それを踏まえて政府は、医療法の改正案をできるだけ早く国会に提出したい考えです。

地域医療支援病院は、開放型病床や高額な画像診断機器の共同利用などによってかかりつけ医を支援する病院で、1997年の医療法改定に伴い新設されました。地域の開業医などと連携して紹介患者を中心に医療を提供し、紹介率を80%超にすることなどが承認要件とされています。厚労省によると、地域医療支援病院は2019年末現在、全国に619病院あります。

地域医療支援病院の機能として厚労省は、現時点で(1)紹介患者に対する医療の提供、(2)医療機器の共同利用の実施、(3)救急医療の提供、(4)地域の医療従事者に対する研修の実施――の4つを想定しています。これに対し、検討会の議論の整理では、「医師の少ない地域への支援」を基本的な役割として新たに位置付ける必要性を指摘しました。

医師の地域偏在の解消に対応しやすくするためで、この役割をカバーするために、必要なら医師少数区域などでの巡回診療や医師派遣の実施などの要件を知事の権限で追加できるようにします。

厚労省によると、地域医療支援病院が全くない二次医療圏もあれば10以上が集中している医療圏もあり、検討会の議論の整理では、「地域医療支援病院がその制度趣旨を踏まえた役割を果たしているのか疑義が生じている」としています。その上で、地域の実情に応じて都道府県が制度を適切に運用できるよう、要件の追加について「さらなる検討が必要」だと指摘しました。

図 地域医療支援病院制度の概要

特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会(2019年6月26日)の資料を基に作成

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2020年4月作成